始めて入れ歯を入れることになった患者さんがいます。
50歳前の女性です。
しかも前歯を含んだ入れ歯です。
当然のことながら入れ歯は不快なものです。
入れているだけでも不快で憂鬱です。
また女性の場合、上の前歯が無くなるという事は死刑宣告にも近いものです。
もちろん歯を抜くことはよくありません。
自分の歯で食べられればそれに越したことは有りません。
でもこの患者さんの場合も食べるという行為すら出来ないほど歯がぐらついてきて、
数年前よりいろんな方法を施してきましたが、いよいよ歯がプラプラの状態となり、
食べるどころか歯を噛み合わせることも難儀なほどとなったため、ご本人の覚悟の上の抜歯を希望されたという訳です。
こういうケースでは上の前歯が無い期間が無いように、予め歯型を採って入れ歯を作る(即時義歯)という方法があります。
ただこの患者さんは前歯の審美性に重きを置かれ、しばらく歯が無くてもいいという重大な決心をされました。
従いまして約2週間半マスクをしたままで過ごされ、その代わり通常のステップでかつ最速で作れるようにすべての予定を立てた上で義歯製作を始めました。
先日義歯をセットしました。
確かに不具合がありそうでしゃべりづらさもありそうでしたが、幸い一番の希望であった歯並びがきれいに出来上がったために、その違和感などよりも自分の歯が入れ歯とは言えきれいになったことを大変に喜ばれていました。
非常に難しいケースではありました。
女性が前歯を抜かれ、その前歯が無いまましばらく過ごしてもいい。
でも歯並びだけはきれいにしたいという事。それは譲れない。
各個人で希望点が多岐にわたるという事を実感させられました。
でもやはり患者さんと向き合って一つ一つ解決していくという事がどれほど大切かよくわかった治療でした。